日本三名園は日本三大庭園とも呼ばれ、石川県金沢市の兼六園、岡山県岡山市の後楽園、茨城県水戸市の偕楽園の3つの庭園を指しています。この三つの庭園は、いずれも江戸時代に築かれ、それぞれが独自の美意識と歴史的背景を持つ日本庭園の傑作として高い評価を受けています。本記事では、これら三名園の歴史、設計思想、見どころ、そして各庭園が持つ独特の魅力について詳しく紹介します。
庭園は「ただ眺める場所」と思われがちですが、実際は歩くほどに表情が変わります。池の反射、松の枝ぶり、借景の山並み、風の音。そうした要素が重なって、同じ景色でも季節や時間帯でまったく別物に見えてくるのが日本庭園の面白さです。個人的には、三名園はいずれも「写真映え」だけでは語れない、現地でゆっくり呼吸したくなる余韻がある場所だと思っています。
この記事の読み方としては、まず各庭園の「見どころ」を押さえたうえで、最後に紹介する「回り方のコツ」や「選び方」を参考にすると、旅の計画が立てやすくなります。開園時間や料金、イベントの有無は季節で変わることがあるため、訪問前は各公式サイトで最新情報を確認してください。
日本三名園
1. 兼六園(石川県金沢市)

兼六園は、1676年から1822年にかけて、加賀藩5代藩主・前田綱紀とその後継者たちによって整備された庭園です。その名は、中国の詩人・李格非の「洛陽名園記」にある六勝(「広大・幽邃・人力・蒼古・水泉・眺望」)を兼ね備えた庭園であることに由来します。
「六勝を兼ねる」と聞くと少し難しく感じますが、簡単に言えば、広さや奥行き、手入れの美しさ、古色、水の気配、そして見晴らしまで、庭園に求める魅力を欲張りに詰め込んだような場所ということ。歩き始めてすぐに景色が切り替わるので、散策のリズムが心地よく、つい寄り道したくなる庭園です。
歴史的背景
兼六園はもともと加賀藩の藩邸に付随する庭園であり、軍事的・政治的用途も兼ねていました。庭園の整備が進むにつれて、純粋な鑑賞用庭園としての性質を強め、藩主とその家族、そして招待された客人たちのための憩いの場として機能しました。
藩主の庭園というと閉ざされた世界を想像しがちですが、兼六園は時代が進むにつれて一般公開へと道が開かれていきます。権力の象徴であるはずの庭が、今では旅人の目を楽しませる場所になっている。その変化を思うと、庭園は「残された文化財」ではなく、現役の風景として息づいているのだと感じます。
見どころ
- 霞ヶ池
庭園の中心に位置する霞ヶ池は、池泉回遊式庭園の象徴的存在です。池の中には中島や鷺石などの造形があり、それらが池の水面に映る風景が美しいです。 - 雪吊り
冬の風物詩として有名な雪吊りは、樹木を雪害から守るための工夫で、藩政時代から続く伝統技術です。特に唐崎松に施された雪吊りは、兼六園の象徴的風景となっています。 - 徽軫灯籠(ことじとうろう)
2本の脚で支えられた独特の形状の灯籠は、日本庭園の中でも非常に珍しいもので、霞ヶ池に沿って立つ姿がフォトスポットとして人気です。
散策のコツは、霞ヶ池の周辺で「立ち止まる回数」を意識して増やすことです。歩き続けると見落としがちですが、水面の揺れや雲の映り込み、松の影の伸び方など、わずかな変化がこの庭園の醍醐味。個人的には、同じ場所でも数分待つだけで写真の印象が変わるところに、兼六園らしい奥行きを感じます。
季節ごとの魅力
- 春:梅や桜が庭園を彩り、特に霞ヶ池を囲む桜並木が圧巻です。
- 夏:青々とした松や苔が清涼感をもたらします。
- 秋:紅葉が庭園全体を鮮やかな色彩に染め上げます。
- 冬:雪吊りと雪景色が調和し、幻想的な雰囲気を醸し出します。
季節選びに迷ったら、「庭園らしさ」を強く味わいたい人は冬、「色の華やかさ」を楽しみたい人は春や秋が向いています。夏は木陰と苔の質感が主役になるので、派手さより涼やかさを求める旅にぴったりです。
旅のメモ
- おすすめの時間帯:人が増える前の早い時間は、池の水面が落ち着き、景色が整って見えやすいです。
- 歩きやすさ:園内は見どころが点在するため、歩きやすい靴だと安心です。雨のあとは足元が滑りやすい場所もあります。
- 合わせて行きたい:金沢の街歩きと相性がよく、庭園の余韻を持ったまま茶屋街や近隣スポットへつなげやすいのが魅力です。
公式サイト:兼六園観光協会
2. 後楽園(岡山県岡山市)

後楽園は、岡山藩第2代藩主・池田綱政が1687年から14年をかけて造営した大庭園です。「後楽園」の名は、中国の『易経』の「先憂後楽」(先に憂い、後に楽しむ)という言葉に由来します。この庭園は、藩主の接客の場や娯楽のために使用されました。
後楽園は、三名園の中でも「空の広さ」を感じやすい庭園だと思います。芝生の広がりが視界を開いてくれるので、歩いているだけで気分が軽くなるタイプ。庭園の美しさは細部の作り込みに目が行きがちですが、後楽園はむしろ「余白」の気持ちよさが印象に残りやすいのが魅力です。
特徴
後楽園は、広大な芝生と池が広がる開放的な庭園で、池泉回遊式庭園の中でも独自の風格を持ちます。設計は岡山藩の御用絵師・津田永忠が手掛けており、自然と人工美の調和を追求したデザインが特徴です。
「回遊式」と言っても、後楽園は歩くルートが窮屈になりにくく、視線が抜けるところが多いのがポイントです。庭園の中にいるのに、どこか野外公園のような解放感がある。そのバランスが、初めて日本庭園を巡る人にも入りやすい理由だと感じます。
見どころ
- 唯心山
庭園内の築山で、登ると園内を一望できます。景観のアクセントとして重要な役割を果たしています。 - 沢の池
庭園中央の大池で、鯉や水鳥が泳ぐ姿を眺めながら散策を楽しむことができます。 - 能舞台
後楽園には能舞台があり、ここでは伝統芸能の公演が行われることもあります。庭園と能楽の融合が文化的価値を高めています。
私が後楽園でいちばん「庭園らしいな」と思う瞬間は、唯心山のような小さな高低差が効いてくるところです。平坦に見える景色でも、少し目線が上がるだけで池や芝生の配置がすっと理解できて、設計の意図が体に入ってくる感じがします。写真を撮るなら、まずは全体を把握できる場所をひとつ決めると、散策が締まりやすいです。
四季の彩り
- 春:桜やツツジが咲き誇ります。
- 夏:庭園の広大な芝生と清流が涼を感じさせます。
- 秋:紅葉が庭園に華やかさを加えます。
- 冬:雪化粧の庭園が静寂な美を演出します。
後楽園は「どの季節でも絵になる」タイプですが、晴れた日は芝生の緑と空の青が効いて、写真の抜け感が出やすいです。曇りの日は陰影がやわらぎ、庭園が落ち着いた表情になります。派手さより、静けさが似合う日があるのも後楽園の良さだと思います。
旅のメモ
- 歩き方のおすすめ:まずは広い芝生の眺めを正面から味わい、そのあと池の周りで細部を拾っていくと満足度が上がります。
- 文化体験:能舞台で公演がある日は、庭園の景色が「舞台装置」に見えてくるのが面白いところ。開催情報は事前に確認すると安心です。
- 合わせて行きたい:周辺観光と組み合わせやすく、庭園だけで終わらせず街の景色につなげやすいのが魅力です。
公式サイト:岡山後楽園
3. 偕楽園(茨城県水戸市)

偕楽園は、1842年に水戸藩第9代藩主・徳川斉昭によって造営されました。三名園の中では唯一、庶民にも公開されていた庭園であり、藩主の「偕(とも)に楽しむ」という精神がその名に込められています。
偕楽園の魅力は、「庭園が生活の近くにある」感じがするところだと思います。藩主の庭でありながら、門戸を開いていた歴史があるぶん、格式だけでなく、どこか人の気配が残る雰囲気がある。三名園の中でも、肩の力を抜いて歩ける庭園として印象に残りやすいはずです。
独自性
偕楽園は他の二名園とは異なり、園内に広大な梅林を持つことが特徴です。約100種、3,000本の梅が植えられており、毎年春には梅祭りが開催されます。
梅は桜ほど一気に咲きそろわないことも多く、だからこそ「咲き始め」「見頃」「散り際」まで、それぞれに風情があります。香りが主役になる花なので、写真だけでなく、歩きながら季節を吸い込むような楽しみ方が似合います。個人的には、花の密度よりも、香りと空気の変化を味わえるところが偕楽園らしいと思います。
見どころ
- 好文亭
徳川斉昭が設計した2階建ての木造建築で、内部からは庭園全体を眺めることができます。日本建築と庭園美の融合が体感できます。 - 梅林
偕楽園の象徴的存在である梅林は、2月から3月にかけて満開となり、梅の香りとともに春の訪れを告げます。 - 竹林と松林
偕楽園内には竹林や松林も広がり、それぞれが庭園の多様な表情を生み出しています。
好文亭は「景色を見る場所」であると同時に、「景色の見え方を教えてくれる場所」でもあります。庭園を歩いているときは目線が低くなりがちですが、建物から見下ろすと、植栽や道筋が絵画の構図のように整って見える瞬間があります。梅林が見頃の時期はもちろん、緑の季節に行っても眺めの気持ちよさは変わりません。
四季折々の楽しみ
- 春:梅、桜、ツツジが一斉に咲き誇ります。
- 夏:緑豊かな竹林と池が涼を提供します。
- 秋:紅葉とともに、庭園が秋の装いに染まります。
- 冬:梅林が再び彩りを取り戻し、冬の華やかさを演出します。
偕楽園は梅の印象が強い一方で、竹林や松林の「音」も楽しめる庭園です。風が通る日に竹が鳴ると、視覚ではなく聴覚で季節がわかるような感覚になります。庭園の良さは、派手な名所だけでなく、こうした静かな要素にも宿っていると思います。
旅のメモ
- 梅の時期の注意:見頃は年によって前後します。混雑も増えやすいので、早めの時間帯を狙うと歩きやすいです。
- 好文亭の楽しみ方:庭園を一周する前後どちらかで立ち寄ると、景色の見え方が変わって散策が深まります。
- 香りを楽しむ:写真に集中しすぎず、梅林では一度足を止めて深呼吸するのがおすすめです。
公式サイト:日本三名園 偕楽園
日本三名園の共通点と違い
共通点
- いずれも江戸時代に築かれた。
- 池泉回遊式庭園としての構造を持つ。
- 自然と人工美を融合した設計。
三名園に共通しているのは、「自然をそのまま置く」のではなく、「自然らしさを設計で引き出す」という考え方です。木や石や水は同じ素材でも、配置と視線の誘導で景色が変わる。だからこそ、歩く人のペースや目線まで含めて庭園が完成していくように感じます。静かな場所なのに、どこか「参加している」感覚があるのが、日本庭園の面白さです。
違い
- 兼六園は風雅な美意識と緻密なデザインが特徴。
- 後楽園は広大で開放感に満ちた空間が魅力。
- 偕楽園は庶民にも親しまれる「共に楽しむ」精神が宿る。
選び方の目安としては、庭園の「密度」を楽しみたいなら兼六園、のびやかな「余白」を味わいたいなら後楽園、花と香り、そして人の気配が残る「親しみ」を求めるなら偕楽園が向いています。もちろん、実際に行くと印象が入れ替わることもあります。その予想外の体験こそが、三名園巡りの醍醐味だと思います。
庭園をもっと楽しむコツ
- 最初に全体を見て、あとから細部へ
入口付近で「今日の景色の主役」をひとつ決めると、歩きながら発見が増えます。 - 写真は撮りすぎない
庭園は五感で味わう場所。数枚撮ったら、スマホをしまって音や香りに集中すると記憶に残りやすいです。 - 混雑を避けるなら早めの時間
人が少ない時間帯は、景色が「静かに整って」見えます。落ち着いて歩けるだけで満足度が上がります。 - 雨の日も狙い目
水面の表情や苔の色が深まり、晴れの日とは違う趣が出ます。足元対策だけはしっかりと。
まとめ
日本三名園は、それぞれが独自の歴史と美意識を反映し、日本庭園文化の多様性を象徴しています。兼六園の優雅な趣、後楽園の開放的な景観、偕楽園の親しみやすさは、訪れる人々に深い感動を与えます。それぞれの庭園を訪れることで、日本の美意識や自然との共生の精神を再発見する機会となるでしょう。
庭園は、知識が増えるほど楽しくなる一方で、知識がなくても十分に心が動く場所でもあります。三名園はその両方を叶えてくれる貴重な存在です。次の旅先を迷っているなら、「今の気分に合う庭園」を選んでみてください。きっと、歩き終えたあとに残る余韻が、その日の旅をやさしくまとめてくれるはずです。


