内子町(うちこちょう)は、愛媛県西部の山あいにありながら、商いで栄えた時代の息づかいが今も残る町です。なかでも八日市・護国(ようかいち・ごこく)地区の町並みは、江戸時代後期から明治期にかけての商家建築が連なり、歩くほどに「暮らしの歴史」に触れられるのが魅力。古い町並みというと“見て終わり”になりがちですが、内子は建物の中に入って初めて腑に落ちる面白さがあります。
私が内子の良さだと感じるのは、華やかな観光地らしさよりも、商人町として積み重ねてきた堅実さが景色の端々ににじんでいるところです。格子戸や土蔵、軒の深さ、道に沿って伸びる家々のつくりを眺めていると、「ここで人が働き、家族が暮らし、町が回っていたんだな」と想像が自然にふくらみます。
内子町の歴史
内子は、宿場・在郷町として発展し、江戸時代後期から明治時代にかけては地場産業である木蝋(もくろう)の生産で大きく繁栄しました。木蝋は、灯りの燃料として使われたほか、さまざまな用途で求められた“国産ワックス”でもあります。町には製蝋に関わる商家や施設が生まれ、商いと暮らしが密接に結びつきながら、町の景観そのものが形づくられていきました。
時代が進むにつれて産業構造は変化し、木蝋の最盛期は過去のものになりました。それでも内子は、建物や町並みを「残す」だけではなく、守りながら活かす道を選び、今の観光につながっています。八日市・護国の町並みは昭和57年(1982年)に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、保存の取り組みが早くから進められてきたことも、内子の歩きやすさや見学のしやすさにつながっています。
内子町の見どころ
内子町の伝統的な町並み(八日市・護国)
内子でまず歩きたいのが、八日市・護国の町並みです。格子戸の商家、白壁の土蔵、虫籠窓(むしこまど)など、商人町らしい意匠が連続し、短い距離でも見どころが途切れません。建物の正面だけでなく、軒先の細工や壁の質感までじっくり眺めると、写真で見る以上に情報量が多く、散策が“観察”に変わっていく感覚があります。
また、内子の町並みは「暮らしの場」でもあります。だからこそ、静かな路地や民家の前では声量を控えめに、写真撮影の際も通行の妨げにならないようにしたいところ。こうした小さな配慮をすると、町全体の空気がさらに心地よく感じられます。
内子座と、工事期間中の楽しみ方
内子を象徴する建物のひとつが、芝居小屋「内子座」です。創建は大正5年(1916年)で、木造の劇場建築として高い価値があり、回り舞台や花道など“芝居小屋らしさ”を感じられる点が人気でした。
ただし、内子座は耐震補強を含む保存修理工事のため、2024年9月2日から約4年間の長期休館となっています。とはいえ「見られないから行かない」ではもったいないのが内子らしいところで、工事期間中は内子座の裏手にある内子座楽屋の一般公開など、別の形で内子座に触れられる機会が用意されています。訪問前に最新の公開状況を確認しておくと、予定が組み立てやすくなります。
内子町の観光スポット
町並み散策と合わせて立ち寄りたい、定番スポットをまとめました。建物を“外から眺める”だけでなく、“中に入って理解する”順番にすると、内子の面白さが深まります。
- 八日市・護国の町並み
内子らしさを最も感じられる散策エリア。格子や土蔵、商家建築の連なりが美しく、短時間でも満足度が高いのが魅力です。 - 内子座(休館中)/内子座楽屋
内子座は保存修理工事のため長期休館中ですが、期間中は内子座楽屋の一般公開などが行われています。劇場そのものの“裏側”に触れられるのは、むしろ今だけの体験です。 - 商いと暮らし博物館(内子町歴史民俗資料館)
商家の暮らしや道具、内子の歴史を具体的に学べる施設です。町並みを歩く前後どちらに入っても理解が深まりますが、個人的には「先に見学してから歩く」と、格子や間取りの見え方が変わって面白いと思います。 - 木蝋資料館上芳我邸(かみはがてい)
木蝋づくりと商家の暮らしが一体になった構えを、建物そのものから感じられるスポットです。木蝋の工程展示もあり、「なぜ内子が栄えたのか」が腑に落ちます。
内子町の特産品と食文化
内子は海に面している町ではありませんが、周辺地域も含めて食材の選択肢が広く、旅の満足度を底上げしてくれます。町歩きの途中は、甘味や軽食で小休憩を挟むと、景色の印象までやわらかく変わるもの。歩く距離がそれほど長くなくても、あえて「休む」を予定に組み込むのがおすすめです。
お土産なら、地元の味噌や梅加工品など、“日常に持ち帰れる味”が選びやすい印象があります。さらに時間があれば、道の駅「内子フレッシュパークからり」に足を延ばすのも手。内子産の野菜や果物、加工品がそろい、旅の最後に買い足す場所として便利です。
歩き方のコツ
内子の町並み散策は、目的地を詰め込みすぎないのがコツです。建物の細部を眺めたり、展示で背景を知ったりすると、想像以上に時間が過ぎます。目安としては、町並み散策だけなら1時間〜2時間、資料館などの見学も含めるなら半日あると安心です。
おすすめの流れは、①資料館で内子の商いと暮らしをつかむ→②八日市・護国の町並みを歩く→③木蝋資料館上芳我邸で産業と建築を結びつける、という順番です。歴史の“点”が散策中に“線”でつながっていく感じがあり、私自身、この順がいちばん没入しやすいと思います。
車で行くなら駐車場も押さえておく
八日市・護国の町並みの入口付近には町営の「町並み駐車場」があり、普通車は1回300円で利用できます。利用時間は8:30〜18:00(10月〜3月は17:00)で、駐車場から町並みまでは徒歩すぐ。町並みは道幅が狭い場所もあるため、車は駐車場に置いて歩くのが安心です。
アクセス
内子町へのアクセスは、松山市内から車でおおむね1時間ほどが目安です。公共交通ならJRを利用し、内子駅へ向かうルートが分かりやすいでしょう。JR内子駅から八日市・護国の町並み入口までは徒歩約15分(約1km)ほどで、散歩がてら歩ける距離感です。到着後の動き方に迷ったら、まず観光案内所で地図を受け取ると、寄り道がしやすくなります。
まとめ
内子町は、商人町として栄えた歴史を、町並みそのものに刻み込んだような場所です。八日市・護国の町並みで建築の美しさを味わい、資料館や木蝋資料館上芳我邸で背景を知ると、「なぜこの景色が残ったのか」が自分の言葉で語れる旅になります。派手な観光地とは違う、静かな熱量がある町。歩くほどに、昔と今がゆるやかにつながっていく感覚を楽しんでみてください。